Edison製の蓄音機を修理しました2023-04-22

当店がある日立市という街には手に職をもつ技術者が多い。もともと大きな工場とともに発展してきた街であるので、溶接、ロウ付け、機械加工や絶縁材料、ネジ専門などなど一般的なものから特殊なものまでたくさんの方々がいらっしゃる。そんな折、私のお客様から「100年前のレコードプレーヤ(Edison B19)を手に入れたのだがサウンドボックスを継なぐアームの一部が欠け落ちてしまい使えない。直せないか」とのご相談をいただいた。その本体をお預かりし、調べていくうち色々なことがわかってきた。

@ Edisonのこの機種はレコード最初期の「縦方向に音楽信号が刻まれている’円盤’」用であること。

’円盤’=>エジソンの発明品の記録媒体は筒状のドラムだったが、それを円盤にしただけの単純なもので、円盤の厚さは6mmもある重たいもの。円盤は鋳物のターンテーブルに載っており、その駆動には大きくて太いゼンマイが使われている。クランクを手で回してゼンマイを巻きあげ、ブレーキを外すとほぼ一定速度(78rpm)で回転する。刻まれた音を拾うのは鉄の針で、その振動は鉄針が取り付けられているサウンドボックス内のマイカの振動板に伝えられ、その音がサウンドボックス直結の配管を伝わって装置下部のホーンから吐き出される構造。

問題点
1.この装置は縦振動用のピックアップ・アームをこの製品の何年か後に出た横振動の円盤に対応させるためアームを無理やりに交換していた。その折、アームの接合部受け部(鋳物)が欠けてしまっていて、アームを支えられない状態になっている。
2.ゼンマイに引っ掛かりがあり内部のグリスの劣化と思われた。この引っ掛かりはそのまま回転ムラになるためグリス洗浄と再充填をしなければならない。

アームの受けが欠けている

まず1.については友人がさらにその友人方々の知見を集めて検討してくれて、最初はロウ付けも考慮したのだが、かつての金属が亜鉛合金である(アルミはまだ一般的ではなかった時代)ことから、特殊溶接になり材料も工賃も異常に高い。そこで、割れた配管の内側に適切なアルミ小管を接合し、欠けた部品はアルミで再生して補修することにし、それらの接合には特殊な接着剤で処理することとした。
補修完了した受け

これを完了して試聴していたら、2.の問題が発現した。まぁ100年も前の機械装置なので、たとえばグリスに限らず潤滑剤の劣化や硬化は発生してしかるべきであろう。
この対策をするため機械油が必要な部分は高級な時計用油で洗浄して入れ替え、ゼンマイのグリスについては充填作業を実施した。この充填作業が大変。大昔なのでグリスニップルがあるわけではなくゼンマイのケース(香箱)に小さな穴が空いているだけ。手持ちのグリスガンの最小口径がこの穴より小さかったことから、この穴にグリスガンの口をあてて流し込む。ニップルじゃないので圧はかけられない。静圧で落とすしかなく、なかなか充填できない。何度もゼンマイを巻いたり解いたりしながら各部に行き渡らさせ、動きがスムーズになるまで繰り返す。数日かかるかも、というレベルで根気のいる作業。なんとか4日で完了させた。

さらに、サウンドボックスについてはマイカ(雲母)のものがついていたが、後年のジュラルミン製のものの方が音がよいことはわかっていたので、友人の手持ちでサイズの合うものを探したら、1個だけ見つかった。これを付けてみたら音圧もS/Nも上がって実にいい感じ。音量もしっかりある。電気を一切使わない、しかもデジタル分割されていないアナログの音。これはこれで実に味わい深いものである。

完成して試聴中

これらの作業を完了し、ジュラルミンのサウンドボックスを含めてお客様に納品した。
スムーズな動きと、音質の改善にお客様は大満足であったことは言うまでもない。

蓄音機の修理は全てができるわけではありませんが、ご相談をお受けします。
下記、当店のHPへどうぞ
https://www.ne.jp/asahi/sound.system/pract/


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